不定期で、気まぐれで、途切れそうでいて、続いている日記。
月日が流れるということは、それなりに年も重ねていました。
「いつ書いたか」というのが分からないのもいいな、となんとなく思い、これまでどの日記もあえて日付は表示していないんです。だから日記とエッセイのちょうどあいだ。宙ぶらりん。
時系列に並べてしまうと、順番がはっきりして、きっとそれで気が済んでしまうかもしれなくて。
前回のエッセイも2年ぶりに綴っていたようで、どうやら自分の気まぐれの周期は2年というペースでふらりと訪れるみたい。
世界のある場所から、時が止まってしまった無力感がかすかに聞こえてくる。
別の場所からは、それを補うようにして限界を超えて稼働するせわしなさが響いてくる。
新型コロナでたしかに世界は一変したけれど、大切なことは日常のなかにずっとあって、それは決して失われるものではないかなと。
生活のリズムや日々の行動といったことが変化してからちょうど一年が経って、じんわりと感じました。
何か新しいことを始めたよ、何かを習得したよ、と胸を張って大声で誰かに言えるような期間ではなかったのだろうけれど、ふとした瞬間ににっこり笑えるように、少しずつなれたのかもしれない。
その歩みを辿って。
ー 手づくりに没頭する安らぎのひととき ー
必然的に家で過ごす時間が多くなったので、自分でできる範囲のことに取り組んでみると、これがなかなかのハッピータイム。
"自分でできる範囲の"というのがけっこう重要なポイントで、この範囲を越えて無理をしてしまうと、かえってよくないのですね。だからそこのさじ加減はちゃんと考えます。
まずは、メロンパンが大好きなのでメロンパン作りに取り掛かろうとしたけれど、オーブンがないもので断念。
決して頻繁というわけにはいかないけれど、味の研究という名目でのパン屋さんのメロンパン巡りはたまりません。食べる頻度が高くなるとなかなかのカロリーなので、店先で立ち止まって目視のみで研究することもしばしば。
メロンパンは諦めて次に目をつけたのが、フライパンさえあれば作れるどら焼き。
いかがでしょう。
焼きあがった円盤を眺めていると時間を忘れてしまう。
真夜中にキッチンに立って甘い香りがほんのりと広がって、フライ返しをにぎりしめる。まあるいお月さまのように愛らしくて。
きれいな満月みたいに焼けるように、これから上達していきたいと思います。
海外暮らしという環境は、日本の味が恋しくなって日本食や和菓子をどうにかこうにか材料が手に入らないなかで試行錯誤して作る、という心境になったりするのです。
オスロに住んでいた頃、どうやら小豆に見えるけども怪しい豆をアジア食材店で入手して、鍋でひたすら煮てあんこを作ろうと奮闘したことがありました。
オーブンにまつわる本のことを少し。
欧米の食卓にはオーブンは欠かせないので、実家に帰ったときに作るのを楽しみにしているオーブン料理がいくつか。
クリスマスのギフトとしていただいた『台所のメアリー・ポピンズ おはなしとお料理ノート』(P.L.トラヴァース 作|メアリー・シェパード 絵|小宮由、アンダーソン夏代 訳/アノニマ・スタジオ)。
物語と料理のどちらも楽しめる素敵な一冊。
レシピを一通り読んでみると、メアリー・ポピンズは英国人なのでオーブン料理のような手間をかける一品よりも、「紅茶のおいしいいれ方」というレシピのほうが案外難しいのかもしれない。
イギリスの伝統料理はもう一冊、小さい頃から家にあった『ピーターラビットのたのしい料理』(ビアトリクス・ポター 画|フレデリック・ウォーン社 編|北野佐久子 訳/福音館書店)という絵本にも登場しています。
「ベーコン・エッグ!ベーコン・エッグ!」というレシピは、まさに休日のモーニングにぴったりでした。のんびりと過ごす週末に味わう一品。
次は「ピーターラビットのサラダ」あたり、気軽にチャレンジできそう。
ー 暮らす街の空気を感じる ー
家にいながら自分でできることが少しずつ広がっていくのと同時に、家の周りの景色も生活の傍に感じるように。
約束がある目的地に移動して、用事が終われば帰宅して。そうやって自分が暮らしている周囲には、今までそれほど目を向けてこなかったような気がします。
外出が制限されてから、はじめは近所をちょっと歩いただけだったのが、出不精の自分がだんだんと散歩にも慣れていって、散策コースが少しずつ広がっていくのが嬉しくて。
通りの名前がなんとなくわかるようになって、土地勘を身に付けるまでにはまだ道のりが長いけれど、民家の屋根やドアの色もなんとなく覚えていくものなのですね。
どんな気分の日もどんなことがあった日も自分が毎日を過ごしている、その近くにある街の表情を眺める。それは、以前は素通りしていたささやかな楽しさだったり。
少しばかり通りを進んでいけば、わくわくするような本屋さん KAIDO books&coffee に。
2階はゆったりとしたスペースで、壁一面の本棚は学校の図書室のような懐かしさがありました。
名物のホットドッグを食べ終わったら、舟だまりへ。
古い屋形船などが停まっているすぐ向こうに高層のマンションやビルが立ち並ぶ風景は、異なる時代の景色が重なって見えているみたいでなんとも不思議。
ほんのわずかな一角だけがポツンと取り残されているようで、あまりに静かな水面には寂しさが映っていたのかもしれない。
けっきょく「食べ物日記」みたいになってしまったけれど、そういえば最近もう一冊、食べ物の書籍に出逢ったのでした。
Plateau Books という本屋さんに連れて行っていただいた休日の午後。なにより静かで、白いカーテンを通して伝わる光とやさしい空気が気持ち良い。それはもう浸りました。
そこで、ふと目に止まった『モネ 庭とレシピ』(林綾野 著/講談社)。
庭についてのページをめくりながら、そうだ子供のころ庭師になりたかった時期もあったなと思い出し、ちょっぴり気恥ずかしい気持ちに。理想の家と庭について、どこに薔薇を植えるだとか色鉛筆を使って細かく描いた絵も大事にとってありまして。祖父の影響?
モネが気に入っていたという「ネギとジャガイモのスープ」を今度作ってみよう。
スープは、身も心もぽかぽかになる。
冬に作ったフィンランド風サーモンスープも、また作りたい。
春になっても、まだ肌寒い日が戻ってくるから。
遠出もままならない状態が続いているなか、ほぼ一年振りに街の本屋さんを訪ねた週末。
特に近況を聞かなくても、お店の看板が見えて灯りがついている様子を見ただけで安心するのかもしれない。
しばらく会えてないノルウェーに住む姉へのポストカードをひるねこBOOKSで探し、
古書ほうろうでは窓辺に腰かけて珈琲を飲み、こういう状況になってから始めたアンティークアクセサリー作りの古本を見つけました。
アクセサリーが少し作れるようになると、壊れてしまったアクセサリーの修復もできるようになるのでうれしい。古いけれど気に入っているものも手直しして大切に使い続けよう。
切れてしまったままで眠っていた母のパールのネックレスを2つほどお直し。
そろえたばかりの工具の持ち手は、まだ買ったばかりの新しさでツンと跳ねているけれど、だんだんと手になじむようになる。
ー 次回はパン日記になることをうっすら期待して ー
振り返ってみるほどの量の本たちを読んだ時期でもなかったけれど、ずっと後回しにしていた本棚を整える時間も落ち着くひととき。
棚の前にしゃがみこんで祖父の本の古くなったページを注意深くめくったり、背表紙の向きが逆でどんな本か知らないままだった父の本の向きを正しく並べてみるとまさに自分の読みたかったような本だったりして。
最後に、この一年、自分の健康と安全を守ってくれて、いつ何処へ行くにも共に過ごしたマスクを。
手づくりして用意してくれた母と、マスクたちに感謝しています。
今後も引き続き使うのでこれからもお世話になります。ありがとう。
(本当はこの倍以上あるけれどお気に入りを6つほど)
次にエッセイを綴るころには、離れた場所にいる人とも顔を合わせて、少し遠くにも足をのばせるような世の中になっているかな。
その時まで、どうか身体を大切にしてお過ごしください。
おすすめの街の本屋さんなど気軽に教えてください。
落ち着きが戻ってきたら、訪ねてみようと思います。