住み慣れた場所を離れ別の環境で生きていくというのは、芸術を学ぶ上で、新鮮な感覚や刺激を得られる貴重な経験。
そのぶん苦労も多いし不安になる事も多々あるけれど、時間だけは待ってくれないので自信がなくても前に進むしかない。
来た当初は、小さなことでも大きく感じて。
一日を過ごす事だけでも、もうへとへとになっていた。
色んな人に出会いたくて、
友達もたくさん作りたくて、
練習が終わってから本当は苦手なパーティに顔を出したりして、振る舞い方が分からずひたすらチップス食べたり、
初めての1人生活で、
初めての海外生活で、
初めての大学生活。
「わからないことばかり」ってこういうことね、
と苦笑いしてしまうくらい、本当に何もわからない。
初めて出会う国籍の人と知り合い、
初めてこの地で友だちができて。
そんなこと?と思うようなことも、自分にとって大きな喜び。
けんかをして、
思いっきり叱られて、
大学のトイレで一緒に号泣して、
言葉が分からず、最初は話せないのが恥ずかしくて、分かっているふりをしてしまって、どんどん授業においていかれたり。
みんなと同じように輪の中に入れず、でも外国人留学生同士でもかたまりたくないという、自分の変な意識に振り回されたり。
この国の人々とうまくやっていくのにつまずいた事も。
実は、最近もそのことで落ち込んだばかり。
けれど、やっぱり救ってくれたのは自然で、空気に触れて、鳥に(一方的に)挨拶したら、まだまだこれから長いノルウェー生活、ここで逃げずに頑張ろうと思えた。
透き通った湖と深い森、豊かな自然に救われる日々。
この国はどこか素朴な国で、たまに味気ないと思ったり、どんなものも手に入る日本が恋しくなったりする。
でも「ここで良かった!」と思えたこともある。色々なことをこの地で経験して、そしてそれを自分がどう受け止めていくのか。
そう考えることで、こういう思いになれたのかもしれない。
この国は、一人あたりに対してのスペースが広いように思う。
家や電車が広いというのもあるのかもしれないけれど、なんていえば良いのだろう。気持ちにもゆとりがあり、ゆったりとできる広さを与えられている。
ただテンポが遅いとか、のんびりだらだらしている訳ではない。
やる気さえあれば、どんな人にもチャンスを与えてくれる。やる気があるという事をきちんと伝えれば。
チャンスを与えてもらえず、拒絶されたこともあった。
私が日本人だからか、ノルウェー語が辿々しいからか、ただ気に入らないのか。
理由もわからず、とにかく悔しくて、それにやっぱり悲しくなってしまって、涙が止まらなかった。その時はちょっとしたノルウェー人恐怖症みたいなものになってしまって、授業を休んでしまってしまったことも。でも、それはノルウェー人だからではなくて、どんな国にも色んな人がいて、それはどこに行っても起こり得ることだという事を、母が教えてくれた。
その言葉を聞いて、全てにノルウェー人に「ごめんなさい!」と心の中で謝り、胸がきゅっと苦しくなった。
大切なことを気づかせてくれた母に、いつかノルウェーのきれいな景色を見せてあげたい。