民族音楽は、文化、時代と歴史、生活、気候、民族や人種、国民性、そういったものが何よりも濃く表れる音楽だ。
やはりそこで生まれた独自のものは、その地に行ってみないと、実際に肌で触れて、その場に自分をおいて感じてみないと分からない。
ノルウェーの民族音楽は、今までなんとなくしか知らなかったので、音大で行われた民族音楽のプロジェクトに参加した経験は、驚きの連続でとても有意義だった。
楽器の説明から、地域ごとの違い、時代とともに変化していった過程、同じ時代の他のジャンルの音楽との違いなどを細かいレクチャーを受ける。その後、実際に楽器を見たり演奏してみたり、音源を流したり試演もしてくれ、民族ダンスやフォークソングも実際に観ることができた。
この国のフォークソングに惹かれる理由は色々あるけれど、あのノルウェー語の響きと、普段のクラシック音楽では使わないような喉の使い方で出す声がとっても合っている気がする。
つくづく思うのが、本当にノルウェー人の声ってきれい。
スカンジナビアの言語は喉に負担も少ないらしい。
それに加え、ノルウェー語の発音は、なんというか、風と空気を感じる、聴いていて。
それってすごい素敵な言語だと思う。
そんな感じで、一週間のプロジェクトは朝からみっちりレクチャー、民族ダンスレッスン、民族音楽演奏法のレッスンがあった。
最後に、演奏法のレッスンの成果をコンサートで発表するためだ。
どのグループも、まさか3日だけで作り上げたとは思えない演奏で、素晴らしかった。
音楽の力ってやっぱりすごいんだなぁって思う。
さっき自己紹介をお互いにしたばかりなのに、すぐにもう一緒に曲を練習し共演して。
こうしよう、ああしよう、と意見を交わして、次の日には同じコンサートで演奏して、みんなで同じ時間を共有し分かち合う。
プロジェクトの最終日には、レッスンを受けたフォークダンスを、大学のホールで朝までみんなで踊り狂った。
でもこういう時、自分は「日本人」になってしまう。いや、もともと日本人だけれど。というのも、ダンスは苦手なのです。うん。
ダンスができない、できるという問題ではなく、男女ペアになって体が密着して腰に手を回してのダンスって、日本の伝統的な文化にはないし。
そして、何かのイベントがあれば自然と踊る、という文化の中でも育っていないため、どうしても「うぅっ…」って尻込みしてしまう自分。
嫌ではないけれど、やっぱりちょっと緊張する。
フォークダンスのスタイルが、輪を作って、女子が外側で男子が内側で、1パターン踊り終わったら男子が一人ずつ前へ前へとずれていくため、どんどんどんどん新しい男の子と踊らなければならず、それを3時間以上やり続け、相当ハードだった。
ちょっと前の自分だったら、確実に断固拒否して参加しないで帰っただろう。気持ちはもちろん、帰りたい。今すぐに。
正直に「私、ほんとダンス下手だけど大丈夫?」って聞いたら、男の子がリードをしてくれて、やっぱりノルウェー人の男の子は優しい。
やっぱり下手でもなんでも、勇気を出して恥をかいても構わないから、みんなと接する事は大事だなと思った。
自分は、この大学に入りたくて入ったのだし。この国を知りたくて、来たのだから。
恥ずかしいほどのお粗末なステップを披露してしまったおかげで、新しい友達もできた。
一緒に演奏したり踊ったりすることで、言葉を交わさなくても一瞬で友達になれる。
それにしても、思い返すだけで、顔を覆って泣きたくなる。
何がそんなに難しいって、とにかくもの凄い速さで休まず回り続ける。
私はもうダンスをしていたのではなく、相手につかまっている(しがみついている)状態だった。
メリーゴーランド並みの遠心力のせいで頭もくらくらして。
何回彼らの足を踏み、蹴ったことだろうか。
日本の文化には、ペアを組んだり人と対面しながら踊ったりすることって、昔からの風習にはあまりないから、舞踊はあくまで鑑賞するもの、というイメージが強かった気がする。
またひとつ、ここに来て新しいことを経験した。